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製作著作山ボケ社
無断転載を禁ず

西穂高から奥穂高へ
―女二人で行く岩陵ルート―




2007年8月13日〜15日、参加者:ナオコさん、山ボケ猫
地図


13日朝、7:58品川発の新幹線で東京を出て、名古屋駅経由で高山に12:11に到着。12:25発の濃飛バスで約1時間半、新穂高に着いたのは14時だった。夏場は松本から平湯経由でバスを乗り継いできた方が早かったようだ。事務所で真面目に登山届けを書いた。事務所には白出沢の雪渓の状態が悪いので立ち入らないようにとの新穂高ロープウエイ掲示があった。
 ロープウエイ乗り場までの坂道の日盛りの日差しが強い。2基、乗り継いで終点は2156mの千石平。2基目は日本で唯一の二階建てのロープウエイだが、2階には観光客が殺到し、1階へ乗った。
15:15に千石平を出発して、55分で西穂山荘(2360m)に着いた。関西から来ていたナオコさんと合流。1時間ほど前に着いていたという。小屋のソフトクリームがおいしかったそうだ。部屋は女性だけ6名になる。一人は奥穂高から一人で縦走してきた女性。小屋は森林限界に立ち、前の広場からの展望が良い。眼前は霞沢岳だ。人々が三々五々、ビールを呑んで憩っている。そこで、偶然、AスキークラブのSさんと会い、Hガイドとも遭遇。明日の予定は、Hガイドと3人のクライアントは3時半頃、Sさんは朝食をとって6時頃、それぞれ同じく奥穂高へ向かうという。私達は4時半頃出発としたので、両人に挟まれて進むことになる。前庭なんとなく心強い気持ちになる。Hガイドはこのコースは29回目だそうだ。“暑いか寒いか”尋ねると、“暑いので水を十分持って行くように”とのこと。Hさんは2L持つそうだ。私は装備としてシュラフカバーと羽毛服の上だけは持った。ナオコさんはヘルメットだが、私は夏用帽子。夕方7時頃、山岳カメラマンの林三樹生さんによる“穂高の自然学2007−水が作る地形〜上高地と梓川〜”という講演会があった。話すことを楽しんでいる様子で、内容も興味深かった。
8月14日
夜明け
3:45 起床。1階に下りて、朝食用のお弁当のお結びを一つ食べる。4:30、出発。外は赤らんできており、ヘッドランプは不要だった。小屋脇のこんもりした草の尾根にとりつく。すぐ、単独の高齢の登山者を追い越す。稜線に出ると東の空が帯状に明るくなり、日の出が近い。快晴で、あらゆる山が見えるという感じ。左手には笠ケ岳。背後には焼岳と乗鞍。
独標識
 眼前には峨々たる岩尾根が恐竜の背骨のように競りあがっていく。これを一つ一つ、やっつけていくのだ。5:32、最初の、ピラミッド型のピーク、2701m、独標着。


独標山頂にて  ここまでは、特に危険な箇所もなく、岩のハイキングコースで、コースタイムも順調。すがすがしい朝。360度の展望。気持ちのええとこだ。
富士山
 南アルプスの脇に富士山も見える。独標を越すと、その裏に、突然、尾根が痩せ、あやうそうな箇所が現れたが、難なく通過。前穂高まで12〜13個のピークがあるという。実際、ピークを踏んでいくのは前半分位で、後半は脇を巻いていくが、記憶に残るのは6:05に通過したピラミッド・ピークくらい。
西穂高からの焼岳乗鞍
6:50、前穂高山頂着(2909m)。振り返れば、焼岳と乗鞍、その背後に御岳。数名の登山者がいた。半数はここから引き返す気配だ。ここまでがハイキングコースで、ここからいよいよ、北へ、岩稜コースが始まる。水平距離的には、西穂山荘と西穂高までは、西穂高から奥穂高までとほぼトントンから、まあ2/5なのだが、コースタイムはここまで2時間半、ここから5〜7時間と、コースの厳しさがうかがえる。逆コースだと下りが主体になり、3時間短くて済むという。
西穂高からの槍
北側は左手に槍ヶ岳が逆光の中に浮かぶ
西穂高からの吊尾根 右側は前穂と吊尾根が驚くほど近くに見える。北側をのぞくと、ざっくりと切れ落ちた岩尾根で、ほとんど真下にコルがみえている。下って行く人があり、同行ありという感じで、安心感が沸く。ガゴーッツという轟音がとどろいたが、石が飛騨側の谷を落下していくときの音のようだった。言われてみれば、人の叫び声に聞こえなくもない音ではあった。
前穂高からの下り
 慎重に下る。急な下りだが岩は安定している。急な2段のくだりで、鎖場も3カ所あった。しかし、意外とルートはしっかりしており、どこぞ、かしこの山で経験してきたような登山道だ。
しばらく行くと、追いついてきた単独のおじさんが、「さっき、這い松につまずいてころんでしまった。這い松につかまって落っこちないで済んだ」と、言った。危険箇所と思われる場所を通過した後だったという。事故はえてして、そのような気の緩んだ場所で起こるものだ。間ノ岳からの槍ヶ岳7:44、小ピークで休む。間ノ岳が近づくと、岩稜がもろい感で、浮石も多い。

 赤茶けた大岩の重なったのが間ノ岳で、8:20着。槍ヶ岳がすっくときれいに天を突いている。


スラブのぼり


 間天のコルからの登りにスラブの岩場があり、鎖があった。フリクション(摩擦)が十分にきく。越えて、右手の上高地側に出る。

天狗の頭9:12〜9:28、天狗ノ頭。南眼前に六百山と、眼下に梓川、上高地と旅館の赤い屋根群。ここまではピッチも良くて、意外と早いかもという気分だ。しかし、ここから本格的な登りが続く体力勝負。飛騨側を巻いて、かなり下って天狗のコル。ここからは暑くなってくるし、虫もうるさくなってくる。ナオコさんはさかんに虫除けスプレーを使い、私は借用させていただく。A型はほかの血液型よりも刺されにくいという論文がある。私はA型なので、ナオコさんに別型かときいてみたが、同じくA型ということだった。畳岩尾根ノ頭とコブ尾根ノ頭の登りは長い。長いばかりで見通しが立たない感じがする10:15〜10:28、一休み。
クーロワールを登る10:45頃、クーロワール状のところに出た。上から4,5人パーティーが降りたいということで、鎖を譲って、その左側の面を登って、右に戻ろうとしたら、頂稜は岩のエッジ。馬の背状の岩をまたいで、足をぶらつかせて戻った。本道からはずれるもんではないなあー。そこからは、くずれやすそうなガレ場を登り、下を向いていたら、頭をごつんと岩にぶつけてしまった。メットをかぶっていないと痛い。落石もないわけではないので、メットをかぶるべきだった。
前穂高北尾根
笠ガ岳11:20〜11:25でもう一休み。前穂の北尾根が近づき、笠ガ岳に雲がかかってくる。11:35頃、コルについた。眼前にはゴミ山のような瓦礫の堆積がある。左に黄色ペンキで「飛騨側」と書いてある。瓦礫の上に2,3名の人が見えた。ピークまで5分位か。岩の瓦礫脇のトラバース





 畳尾根の頭と思い、そこは右に巻くと聞いていたので、右のトラバースをとる。足場が打ってあり、ロープを使って右へ進んだ。時間を考えれば、自分がどこにいたか、わかっただろうが・・・。
上高地側面に出てトラバース まず、上高地側に出るから稜線にあがる。ナオコさんの姿が見えなくなって、稜線を尾根通しに進もうと思ったが、道の気配が異なるのに気づいて、ナオコさんがすぐ下を下っていたのに気がついた。飛騨側にガレ場の急坂を降りた。
Hガイド一行12:09、トラバース道で前のピークの急な登り斜面に先行するHガイド一行が見えた。4人がアイザイレンしている。ほとんど、登り切るところだ。手を振ったが、後ろ向きのせいか、気がつかないようだ。こちらは下る番だ。下る巻き道は、道幅がせまかった。良くない所だなあと思ったが、ここが実はロバの耳の巻き道だったのだった・・・。ロープを使って降りるところで順番待ちした。
鎖はないが登りやすい 登りにかかると、4級程度の岩場で、気持ちよく高度がかせげた。
ジャンダルム12:30、ピークに着いた。そばにいたおじさんに、「あれがジャンダルム」といわれて、「?」と、振り返ったら、写真で見慣れたジャンダルがそびえていた。れれれ、スキップしてしまったか!後をついてきたおじさんも、「ジャンダルムって、書いてあればよかったのねえ」という。後から来た、もう一人のおじさんが、「なかなか来ないと思ったよー」という。あの瓦礫の堆積がジャンダルムだったのだ。イメージが違いすぎる!ピークを踏みに戻っても良い時間だったが、あの道を戻るのは億劫だったし、それほどの執着もなかった。まあ、この記録を読んだ人は、他山の石としてください。
奥穂高近づく
 馬の背は痩せ尾根だが、距離が短いし、こちらの感覚もいいかげん、もう麻痺状態だ。13:00、奥穂高山頂(3190m)に着いた。安全領域に入ったというか、今までのピークに比べると優しい感じがする。あれが燕か大天井か、と、山頂の北側の今まで見えなかったピークを同定して、30分をのんびりと過ごした。穂高岳山荘への道をたどると雷鳥の親子がいた。親は登山者の注目を引いている間に、子供たちを這い松帯のほうへ追いやっているつもりのようだった。
穂高岳山荘から涸沢14:00、急な下りを梯子を使って降りて、穂高岳山荘着。9時間半。広場の眼下は涸沢だ。飲んだり、食べたり。朝のお結びの残り1個を食べた。アクエリアスのペットボトルがナオコさんのザックから出てきたのでびっくり。それは、西穂山荘で急に見当たらなくなったので、あきらめていたものだった。私は水分は1Lしか飲まなかったので(水気はほかにゼリー袋1つ)、ナオコさんに500mlを運んでもらったことになる(?!)。Hガイド一行とビール。Hさんはガイド中は飲み物しかとらないそうだ。食べ物をとると集中力が切れるためという。奥さんは健康を心配しているそうだ。責任の思い仕事ではある。Hさんは500ml缶を7本飲んでいた。
ブロッケン 小屋の前庭に出ると、涸沢の谷にブロッケンが見えた。霧の濃さが頃合になると、クリアーで、まさに御来光。これだけきれいなブロッケンは初めてだ。手をばたばたと旗手のように、鳥のように上下させたり、回転させて、放射状に伸びた腕の動きを眺める。どうして自分の動きが投射されるのだろう。子供の頃、月がいつまでも自分の後をついてくる不思議な感覚を思い出す。
 穂高岳山荘から奥穂高方面を望む小屋の前の広場から、奥穂から降りてくる人々を眺める。Sさんが17時過ぎに降りてきた。私達が小屋を出てすぐ追い越した高齢の方はそれよりも遅く降りてきた。13時間以上かかっただろう。本日、このコースを歩いた人は来た人と、行った人をあわせて7,80名位か。

 西穂高から奥穂高のルートはずっと白や黄色のペンキでマークされているし、要所には鎖も設置されており、意外と整備されているなあという印象だった。ナオコさんは沢登り130本のベテランで、ルート選択眼は私より良くて助けられた感じがする。数ヶ所、迷いやすそうな所があったが、ルートを間違えてうっかり進んでしまうと行き詰るので、無理をしないで戻ればよいだろう。その点は、一人よりも二人の4個の目で見る方が、ミスは少ないと思った。体力に加えて、しっかりした山歩きの経験とある程度の岩登りの経験が必要だが、展望はすばらしいし、とても良いルートと思う。「ぼくの大好きなルートです」と言った友人や、毎年歩いている友人の気持ちが分かるようだ。
 翌日の下山は、当初は涸沢の予定だったが、それが岳沢になり、最後には飛騨側の白出沢(しらだしさわ)になる。新穂高ロープウエイの事務所では、「雪渓の状態が不安定なので通らないように」と掲示されていたが、Hガイドが小屋の人に尋ねたところ、「西穂から来たような人なら問題ない」と、言われたとのこと。私は涸沢も岳沢も下ったことがあったので、白出沢を下るH一行と行動をともにさせてもらうことになったのだ。
8月15日
日の出を待つ人々(穂高岳山荘)5:00、出発の予定で外に出るが、同行する3名の方は「足が遅いから」と、先行して下っていたで、あわてて後を追う。がらがらの大きな岩の下りではストックが有効だ。Hガイドは飛ぶような身のこなしで、先行3人に追いついた。さすが、プロ。正面はちょうど谷の合間に笠ガ岳。
 1時間半位下ると樹林帯に入る。2時間下って、谷の出会いの少し上で小休止。高山植物が目に付くようになる。ニッコウキスゲの黄が鮮やか。谷の出会いまで下ると、本渓は雪渓が埋め、白出大滝がみえた。白出沢と雪渓
右岸を下る しばらく、谷の右岸の細い道を下って、川原に下りた。そこが、重太郎橋が壊れている場所だった。対岸には壊れかかったはしごが立てかけてあり、偵察に渡ったHガイドが腕で丸を作った。渡渉








 渡渉はほとんど濡れない程度で済んだ。一人、後から大きいザックを背負った若い男性が追いついてきたので、先に行ってもらった。会った下山者はこの男性だけだった。登りですれちがったのは、3,4名パーティーと、数名だった。
8:15、西俣林道に出た。槍と双六方面から人々が下山してくる。急にメインストリートに出た感じ。9:00、穂高平小屋着。氷を食べた。
 花の写真などをとりつつのんびり下る。
トリカブト
10:00、少し前、新穂高ロープウエイ乗り場に出た。ナオコさんとはここでお別れして、首都圏グループはHガイドの車に乗った。“ひがくの湯”にて入浴。新しいきれいな、日帰り入浴施設。浴槽が露天で、夏は気持ちよいが冬は寒いのではなかろうか。ついでに、飛騨牛朴葉味噌定食を食す。とても全部食べきれないと思ったが、ペロリと食べてしまった。12:00頃、松本を目指して出発。途中、H運転手が眠むそうな様子になり、乗客は身の危険を感じたので、ダムサイトでティータイムをとった。14:00前に松本駅着。こんな早い場合は、“まるも”にコーヒーを飲みに行ったり、そばや馬刺しを食べに行くのだが、息ができないような猛暑。そうそうに、駅舎にかけこみ、そのまま14:00のあずさに飛び乗ってしまった。夜まで指定席は満席のはずだったが、臨時特急のせいか、自由席は空席が目立った。17:00前、明かる過ぎるうちに帰宅。Sさんは涸沢、涸沢ー上高地経由で下山、人が多くて大変だったようだ。帰宅して、22:00を回ったという。下山届けを出し忘れたのに気づいたのは翌日のことだった。


山ボケ猫 著